海外感染症流行情報 2017年5月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
・中国で鳥インフルエンザH7N9型の患者数が増加
中国では昨年10月から鳥インフルエンザH7N9型の流行が発生しています。今回の第5波の流行は今までになく患者数が多く、4月末までにその数は641人になりました(外務省・海外安全ホームページ 2017-5-16)。従来は中国沿岸部で患者が多く発生していましたが、今期は四川省や河北省など内陸部でも患者が発生しています。中国に滞在中は、生きた家禽の販売されている市場などに立ち入らないようにしましょう。
・東南アジアのデング熱患者数は例年以下
WHO西太平洋事務局からの報告では、今年の東南アジアのデング熱患者数は昨年よりも全体的に少なくなっています(WHO西太平洋 2017-5-9)。累積患者数は、マレーシアで4月末までに約3万人、フィリピンで3月末までに約2万6000人、シンガポールで4月末までに約800人になっています。一方、ベトナムでは4月末までに南部を中心に約2万6000人の患者が報告されており、これは昨年より多い数です。東南アジア各地はこれから雨季に入るため、これから患者数が増える可能性があります。 なお、日本国内のデング熱輸入患者数も、今年は5月7日までに63人と昨年の半分近くに減少しています(国立感染症研究所・感染症週報 2017-第18週)。
・アジアでの麻疹流行
日本ではインドネシアからの麻疹の輸入事例が増えていますが、オーストラリアでも今年は、バリ島からの帰国者で7例の麻疹患者が確認されました(ProMED 2017-5-7)。また、WHO西太平洋事務局からの報告では、今年の麻疹患者数は中国が約1300人と最も多くなっていますが、人口100万人あたりの患者数はマレーシアやシンガポールで多くなっています(厚生労働省検疫所ホームページ 2017-5-9)。
・アフリカ西部での髄膜炎菌感染症の流行
アフリカのサハラ砂漠以南では毎年乾季(1月~6月)に髄膜炎菌感染症の流行がおきています。今年はナイジェリアの患者数が多く、北部を中心に5月中旬までに1万3000人の患者(1000人死亡)が発生しました(ProMED 2017-5-12)。従来はA型という菌が多くみられていましたが、今期はC型が多く検出されています。髄膜炎菌感染症はワクチンで予防可能です。日本で販売されているワクチンは、A型とC型のいずれにも効果があり、流行地域に滞在する際にはワクチン接種を受けておくことをお勧めします。
・アフリカのコンゴ民主共和国でエボラ熱が発生
コンゴ民主共和国で5月中旬からエボラ熱の患者が発生しています。患者が発生しているのは北部の中央アフリカ国境近くで、5月20日までに37人の疑い患者が確認され、うち4人が死亡しました(WHO 2017-5-21)。エボラ熱は2014年に西アフリカで大流行をおこしましたが、今回はジャングルの奥地での流行であるため、周辺地域に流行が拡大する可能性は低い模様です。
・ブラジルでの黄熱流行状況
ブラジルでは今年もジカウイルス感染症の患者が発生しており、4月中旬まで患者数は約7900人になりました(ProMED 2017-5-17)。ただし、2016年の患者数(同時期までに17万人)に比べると、今年は大きく減少しており、同国は5月11日に緊急事態の終結を宣言しました。 一方、同じく蚊に媒介されるチクングニア熱の患者数は、今年になり1万9000人と増加しています。チクングニア熱は、ジカウイルス感染症のように胎児の健康には影響しませんが、高熱や関節痛をおこします。今年もブラジル滞在中は蚊に刺されないように注意する必要があります。
・ブラジルでのジカウイルス感染症とチクングニア熱
ブラジル南部で昨年末から発生していた黄熱の流行は次第に鎮静化しています。4月下旬までに患者数は約3100人で、うち392人が死亡しました(WHO 2017-5-2)。リオデジャネイロやサンパウロなど都市部での患者発生ありませんが、同国に対する際には黄熱ワクチンの接種を受けておくことを推奨します。
・ハワイで広東住血線虫症の患者が多発
米国のハワイで今年の1月から広東住血線虫症の患者が15人発生しました(ProMED 2017-5-14)。この病気は沖縄を含む南太平洋が流行地域で、髄膜炎をおこします。もともとナメクジやカタツムリが感染しており、これを経口的に摂取することで感染します。今回のハワイでの流行の原因については調査中ですが、以前にカタツムリが付着した生野菜を原因とする事例がありました。流行地域で生野菜を食べる際にはご注意ください。