海外感染症流行情報 2016年 7月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
・東南アジアのデング熱流行状況
東南アジア各地は雨期を迎えており、デング熱の患者数が増加傾向にあります(WHO西太平洋2016-7-12)。南アジアでもインドやパキスタンで増加しており、とくにスリランカのコロンボでは2万人以上の患者数となっています(ProMED 2016-7-20)。流行地域では、蚊に刺されない注意をとりりましょう。
・サウジアラビアでの中東呼吸器症候群(MERS)の流行
サウジアラビアでは6月に首都リヤドの大学病院でMERSの集団感染が発生していましたが、流行は鎮静化し患者数は減少しています。6月25日~7月14日までの患者数は22人でした(WHO 2016-7-6, 25)。
・アンゴラでの黄熱流行
アフリカ南部のアンゴラで発生している黄熱の流行は7月になり、鎮静化の傾向にあります(WHO 2016-7-21)。7月15日までの累積患者数は3682人で、最近1カ月の新規患者数は約380人でした。一方、隣接するコンゴ民主共和国では累積患者数が1798人で、1カ月に約700人が増加しました
・英国での消化器感染症の流行
英国のウエールズなどで6月から腸管出血性大腸菌O157による食中毒が流行しています(WHO 2016-7-10)。7月中旬までに158人の患者が確認され2人が死亡しました。輸入野菜が原因と推測されています。腸管出血性大腸菌による食中毒は、日本でも夏場に流行がみられます。また、2011年にはドイツを中心に生野菜による流行が発生し、3000人以上が感染する事態となりました。
・ジカウイルス感染症の流行状況
中南米で流行しているジカウイルス感染症の累積患者数は、7月中旬までに42万人(疑いを含む)にのぼっています(Pan American Health Organization 2016-7-14)。患者数は2月をピークに減少傾向にあります。国別ではブラジルが16万人と最多で、コロンビアが8万人で続いています。南米の多くの地域は乾期になっているため、蚊の発生が減少しており、このためジカウイルス感染症の患者数が減少している模様です。
なお、米国では今までに1300人以上のジカウイウルス感染症の輸入例が報告されています。また媒介蚊であるネッタイシマカが南部を中心に棲息していますが、7月19日にフロリダ保健当局は州内で蚊による感染が発生した可能性を報告しました。今夏、米国南部に滞在する際には蚊に刺されないように注意する必要があります。
http://www.floridahealth.gov/newsroom/2016/07/071916-investigating-possible-non-travel-related-case-zika.html
・ブラジル南部での季節性インフルエンザ流行
ブラジル南部は季節性インフルエンザの流行期に入っています(WHO Influenza HP 2016-7-1-25)。6~7月がピークで既に患者数は減少傾向にありますが、今後、オリンピックやパラリンピックで多くの観光客が同国を訪問するため、流行が長引く可能性もあります。なお、今回ブラジルなどで流行している季節性インフルエンザの主な種類はA型(H1N1)で、病原性はあまり高くありません。このウイルスは2009年にメキシコから豚インフルエンザとして流行が始まったことから、一部のマスコミでは「豚インフルエンザの流行」と記載していますが、正確には「通常の季節性インフルエンザの流行」です。予防には手洗いやウガイといった基本的な対策をとるとともに、ご心配な方は季節性インフルエンザワクチンの追加接種を受けておくといいでしょう。
・デング熱に感染した30歳代女性が死亡
7月22日に厚労省は国内で30歳代の女性(新潟県在住)がデング熱で死亡したことを報告しました。この女性は6月29日~7月15日にフィリピンに滞在しており、滞在中から発熱や発疹があったそうです。7月16日に医療機関を受診し、デング熱と診断され7月21日に死亡しました。国内でのデング熱による死亡例は2005年以来になります。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000131052.html