海外感染症流行情報 2014年7月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
西アフリカでエボラ出血熱の流行が拡大
2013年12月から西アフリカで発生しているエボラ出血熱の流行は7月も続いており、患者数のさらなる増加がみられています。7月23日までの累積患者数(疑いを含む)は1201人で、このうち672人が死亡しました(WHO Reginonal Office for Africa 2014-7-25)。7月だけで患者数が442人増加したことになります。また、7月以降の患者数を国別にみると、シェラレオネ286人、リベリア142人、ギニア14人で、今まで患者発生の多かったギニアから、シェラレオネやリベリアに流行が拡大している模様です。さらに、近隣国であるナイジェリアでも、7月末にエボラ出血熱を疑う患者が1名発生しました(WHO Regional Office for Africa 2014-7-25)。この患者はリベリアからの旅行者です。 現在、WHOや発生国による懸命の制圧作戦が展開されています。米国本土でチクングニア熱の国内感染例が発生
カリブ海諸国で昨年末からチクングニア熱の流行が急速に拡大しています。累積患者数は7月中旬までに43万人となり、ドミニカ(25万人)やハイチ(6万人)で患者数が多くなっています(Pan American Health Organization 2014-7-18)。カリブ海諸国から米国への輸入症例も増加しており、7月22日までにその数は300人近くになりました(CDC Chikungunya virus HP 2014-7-22)。こうした輸入症例の増加にともない、米国本土のフロリダ州でチクングニア熱の国内感染例が2人発生しました(CDC Press release 2014-7-17)。現在、米国は夏のシーズンを迎えており、この病気を媒介するヒトスジシマカの増加が予想されます。このため、チクングニア熱の国内感染例がさらに増える可能性があります。 フランスでもチクングニア熱の輸入症例が増加しており、2013年11月~6月の患者数は475人になりました(Eurosurveillance 2014-7-17)。一方、日本での今年の輸入症例は6人(2014年7月16日まで)と少数に留まっています。中東のMERS流行は鎮静化
7月になり中東でのMERSの流行は鎮静化傾向にあります。7月1日から26日までにWHOが報告した患者数は、サウジアラビア13人、UAE2人、イラン2人でした(WHO Global Alert and Response 2014-7-2, 4, 14, 23)。イランで発生した2人の患者はいずれも海外渡航歴がなく、国内で感染したものと推測されています。 なお、7月26日からMERSは日本国内で指定感染症ならびに検疫感染症として対応されることになりました。今後、MERSを疑う患者については入院措置や検疫措置やが可能になります。 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mers.html東南アジアのデング熱流行状況
東南アジア各地は雨期を迎え、デング熱の流行時期になっています。今年はフィリピン、カンボジア、ラオス、ベトナムなどで、昨年よりも患者数が少なくなっています(WHO Western Pacific Region 2014-7-15)。その一方、マレーシアやシンガポールでは昨年を上回る患者数が報告されています。 東南アジアではこの先も雨期が続くため、現地に滞在する方はデング熱を媒介する蚊に刺されないようにご注意ください。なお、日本での今年の輸入症例は7月16日までに86人となり、昨年と大きな変化はありません。世界各地の麻疹流行状況
今年は世界各地で麻疹の流行が報告されています。中国では今年上半期に3万2000人(厚生労働省検疫所HP 2014-7-3)、フィリピンではマニラなどで4万人以上の患者(疑いを含む)が発生しました(CDC Traveler’s Health HP 2014-7-7)。ニュージーランドでも北部のワイカトなどで麻疹の患者数が増加しています(Fit For Travel 2014-5-26, 6-2)。さらに、ヨーロッパでも麻疹患者の発生が各地でみられており、昨年5月から1年間に、オランダで2700人、イタリアで2300人の患者が確認されました(Europe CDC 2014-6-16)。 麻疹は空気感染をおこす病気で、海外渡航者が流行国滞在中に感染するケースも少なくありません。とくに日本では20歳代後半~30歳代にかけて麻疹の免疫が低いとされており、この世代は海外渡航前に麻疹ワクチンの追加接種をご検討ください。海外感染症流行情報 2014年6月(東京医科大学病院 渡航者医療センター)
アジアでの麻疹流行状況
アジア各地で麻疹の流行が報告されています。中国では4月だけで9000人以上の患者が発生しました(厚生労働省検疫所 2014-6-3)。フィリピンでは5月中旬までにマニラなどで4万人の患者、ベトナムでも北部を中心に4月中旬までに8000人以上の患者が発生した模様です(CDC Traveler’s Health HP 2014-6-2,4)。またインドやパキスタンなど南アジアでも患者数の増加が報告されています(Fit For Travel 2014-5-26, 6-2)。日本でも今年は麻疹患者の増加がみられていましたが、6月になり発生数はやや少なくなっています。6月中旬までの患者数は375人で、このうち83人は海外での感染例でした(国立感染症研究所・感染症疫学センター 2014-6-24) 。麻疹の流行国に滞在する際には麻疹ワクチンの接種について検討してください。
中東でのMERS流行状況
サウジアラビアでは本年4月~5月にMERSの患者数が急増しましたが、6月になり患者発生は沈静化しています。WHOは4月~6月上旬にサウジアラビアで確認された402人の患者についての解析結果を報告しています(WHO Global Alert and Response 2014-6-13)。この報告によれば、患者発生はジッダ(154人)で最も多く、25%以上が病院関係者でした。このうち114人が死亡していますが、無症状か軽症の患者も114人いました。6月はサウジアラビア以外に、UAE、ヨルダン、イラン、アルジェリアでMERSの患者が確認されています(WHO GAR 2014-6-4,11,14)。なお、WHOはMERSウイルスの感染源としてラクダの可能性が高いとの見解を示しています(WHO GAR 2014-6-13)。流行地域に滞在する際はラクダに接しないよう注意するとともに、日ごろから手洗いを励行するようにしましょう。
カリブ海でチクングニア熱の流行が拡大
2013年12月にカリブ海諸国で発生したチクングニア熱の流行は急速に拡大しており、エルサルバドルやコスタリカなど中米諸国にも波及しています。カリブ海・中米地域での累積患者数は6月20日までに18万人にのぼっており、ドミニカ共和国では8000人以上、ハイチでも1000人以上の患者が発生しています(Pan American Health Organization 2014-6-20)。米国でも輸入例が確認されており、今後、米国内に流行が波及することも懸念されています。チクングニア熱は蚊が媒介する感染症で、今までにアフリカやアジア諸国で流行がみられていました。
本症は発熱とともに関節痛がおこることが特徴で、死に至るケースは稀です。ワクチンがないため、流行地域では蚊に刺されない対策をとることが唯一の予防方法になります。
西アフリカでエボラ出血熱の流行が続く
昨年12月から西アフリカでみられているエボラ出血熱の患者発生は6月になっても続いています。流行の中心であるギニアでは6月下旬までに390人の患者(死亡267人)が確認されており、この1か月間で約140人の患者が発生したことになります(WHO GAR 2014-6-22)。隣国のシエラレオネでも136人(58人死亡)、リベリアでも41人(25人死亡)の患者が発生ており、WHOなどによる国際的な制圧対策が展開されています。パキスタン出国時のポリオワクチン接種証明書の提示
WHOは本年5月5日にポリオの流行拡大阻止に関する声明を発表しました(WHO News 2014-5-5)。これは近年、世界的にポリオの流行が再燃しているため、ポリオの輸出国(パキスタン、シリア、カメルーン)では出国者にワクチン接種を行い、拡大を阻止することが必要とする内容です。この声明を受けて、パキスタン政府は同国からの出国者にポリオワクチン接種証明書の提示を要求しています。対象となるのはパキスタンに4週間以上滞在した者で、出国の4週間前から1年以内にポリオワクチン(不活化か生ワクチン)の接種を少なくとも1回は受けていることが必要です。この接種記録はWHOの指定する証明書に記載することが求められています。この証明書は1年間有効で、期限を過ぎた場合は再接種する必要があります。パキスタンに1か月以上滞在する方は出国前にワクチン接種を受け、この証明書を準備しておくことをお勧めします。
#1:WHOの証明書の書式は下記文書のAnnex 6を参照
http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241580410_eng.pdf
#2:パキスタン政府の対応は下記の在パキスタン日本大使館の情報を参照
http://pkembjapan.blogspot.jp/2014/06/blog-post_6976.html
http://whqlibdoc.who.int/publications/2008/9789241580410_eng.pdf
#2:パキスタン政府の対応は下記の在パキスタン日本大使館の情報を参照
http://pkembjapan.blogspot.jp/2014/06/blog-post_6976.html