海外感染症流行情報 2016年10月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
・東南アジアでのジカウイルス感染症の流行状況
東南アジアでみられているジカウイルス感染症の患者発生は10月になり鎮静化している模様です。シンガポールでは8月末から患者が確認されていましたが、10月は新たな患者発生が24人と大幅に減少しました(シンガポール環境庁HP 2016-10-25)。10月下旬までの累積患者数は431人です。WHOは、タイでジカウイルスの感染を原因とする2例の小頭症児が発生したことを確認しました(WHO 2016-10-6)。これは、東南アジアで流行しているジカウイルスも、中南米で流行しているウイルスのように胎児への影響がおこる可能性があることを意味します。なお、WHO西太平洋事務局は2007年に南太平洋のヤップ島でジカウイルスが流行した時点では、胎児への影響が確認されなかったと報告しています(WHO西太平洋 2016-10-11)。
・米国でのジカウイルス感染症の流行状況
米国では7月からフロリダ州・マイアミでジカウイルス感染症の患者が発生しており、10月中旬までに累積患者数は166人にのぼりました(マイアミ州保健局 2016-10-20)。感染場所はマイアミの海岸に限定されいますが、最近になりその地域が拡大している模様です(外務省 海外安全HP 2016-10-14)。詳細は米国CDCのホームページなどをご参照ください。 http://www.cdc.gov/zika/geo/united-states.html 。・ジカウイルス流行地域滞在後の性行為
ジカウイルスは蚊に媒介されるだけでなく性行為で感染することも知られています。流行地域で感染した男性が、無症状であっても精液中にウイルスを保有し、それをセックスパートナーに感染させることが明らかになっています。このため、WHOは9月上旬に流行地域に滞在した男性は、流行地域を出て6カ月間は安全な性行為(コンドームを使用するなど)を心がけるように指導しています(WHO 2016-9-6)。これに基づいて日本の国立感染症研究所は、9月26日に新たなリスクアセスメントを発表し、WHOと同様に流行地域に滞在した男性は、「流行地域を出て6カ月間は安全な性行為を心がけるように」との勧告を出しました。http://www.nih.go.jp/niid/ja/id/2358-disease-based/sa/zika-fever/6783-zikara-9-160926.html 海外派遣企業や海外旅行会社では、流行地域からの帰国者に対して、情報提供を行ってください。
・中国での鳥インフルエンザ流行状況
中国の沿岸部では2013年から鳥インフルエンザ(H7N9型)の流行がみられています。今年は9月までに102人の患者が発生し、このうち42人が死亡しました(外務省 海外安全HP 2016-10-18)。流行は毎年、冬の季節に発生しており、この時期は生きた家禽に近づかないようにしてください。なお、2,013年以降のH7N9型の流行状況がWHOから報告されていますが、患者数は年々減少している模様です(WHO 2016-10-3)。・東南アジアでのデング熱流行
東南アジア各国からデング熱の流行が報告されています。マレーシアでは10月中旬までに患者数が8万人、フィリピンでは10万人で、昨年よりやや減少しています(WHO西太平洋2016-10-18)。一方、シンガポールでは10月中旬までに患者数が1万2000人で、同国の保健省は年末までに3万人に達する可能性があると予測しています(ProMed 2016-10-14)。これは2015年の3倍の数になります。なお、シンガポールでは10月にサノフィ社のデング熱ワクチンが承認されました。3~4か月後に販売予定ですが、どの医療機関で接種を受けられるかは未定です。・東南アジア各国の狂犬病流行状況
フィリピンのマニラ北部にあるPangasinaで、今年上半期に犬の咬傷を受けた患者は1万4000人にのぼっています。狂犬病患者も14人発生しました(英国Fit For Travel 2016-10-4)。ベトナムでも今年9月までに全土で49人の狂犬病患者が発生しました(英国Fit For Travel 2016-10-13)。狂犬病の流行国に長期滞在する場合はワクチン接種を事前に受けておくことをお勧めします。・ヨーロッパ諸国でのレジオネラ症の発生
スペイン・カタロニア地方のSalouで7人のレジオネラ症の患者が発生し、1人が死亡しました(英国Fit For Travel 2016-10-11)。いずれの患者も9月にこの町の同じホテルに宿泊しており、ホテルのシャワーなどから感染したものと推定されています。また、イタリア北部のPalmaでも、9月末から10月初旬に35人のレジオネラ症の患者が発生し、2人が死亡しました(英国NaTHNaC 2016-10-10)。レジオネラは肺炎をおこす細菌で、温浴施設などで感染することが知られています。衛生状態の悪いホテルではシャワーから飛び散る水滴で感染をおこすこともあるため、シャワーを浴びる際には暫く温水を流してから使用することをお勧めします。