海外感染症流行情報 2016年12月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
・WHOがMERS(中東呼吸器症候群)のリスクアセスメントを発表
WHOは12月5日に中東を中心に流行しているMERSのリスクアセスメントを発表しました(WHO 2016-12-5)。2012年から2016年12月初旬までに1841人の患者が確認され、このうち652人が死亡しました。患者の発生国は80%がサウジアラビアです。2015年5月には韓国で、8月にはサウジアラビアで大きな院内感染が発生しました。患者は60歳以上で基礎疾患を有している者が多くなっています。
現時点で、MERSウイルスのヒトからヒトへの感染は病院内以外で起こりにくいとの結論ですが、このウイルスはラクダからヒトに感染することが明らかになっており、中東の流行地域に滞在する際にはラクダに接触しないように注意することが大切です。
・アジアでのデング熱流行状況
東南アジア各国のデング熱流行は12月になり鎮静化しています(WHO西太平洋2016-12-13)。シンガポールでは今年になり1万2000人、ベトナムでは8万人近い患者が発生しており、昨年より多い患者数になりました。
インドではニューデリーで11月末までに4000人以上のデング熱患者が発生しています(ProMed 2017-12-4)。また同市ではチクングニア熱の患者も今年1万人発生しましたが、流行は鎮静化している模様です(ProMed
2017-12-1)。
・アジアでのジカ熱流行状況
シンガポールでは今年8月からジカ熱の患者が発生していましたが、12月の患者数は1例のみでした(シンガポール環境庁 2016-12-23)。今年の累積患者数は457人になります。ベトナムではホーチミンなどで12月中旬までに116人(ProMED 2016-12-12)、フィリピンではマカティなどで12月初旬までに39人の患者が確認されました(ProMED 2016-12-7)。
・インドでのマラリア流行
インド西部のシャルカンド州で今年9月までに6万人のマラリア患者が発生しました(ProMED 2016-11-26)。患者の半数は重症化する熱帯熱マラリアでした。日本人が立ち入ることは少ない地域での流行ですが、仕事などで滞在する際にはマラリア予防対策を十分に行う必要があります。
・ドバイからの帰国者にレジオネラ症が多発
今年の10月以来、UAEのドバイから帰国したヨーロッパ人旅行者にレジオネラ症の患者が多発しています(ECDC 2016-12-23)。12月中旬までに26人の患者が確認されており、このうち12人は英国人旅行者でした。患者はドバイで特定の宿泊施設に滞在しておらず、感染は市内でおきた可能性があります。
レジオネラは肺炎をおこす細菌で、ホテルなどでシャワーを浴びた時に、水滴の中にいる病原体を吸い込んで、感染をおこすことが知られています。また、温浴施設や噴水などが原因になることもあります。抗菌薬の投与で治療できるため、ドバイから帰国後にカゼ症状などがある人は早目に医療機関を受診するようにしましょう。なお、この感染症はヒトからヒトには感染しません。
・イエメンでコレラの流行が発生
アラビア半島のイエメンンでコレラ(エルトールO1型)の流行が発生しています。12月中旬までに疑い患者は1万人以上に達し、92人が死亡しています(WHO東地中海 2016-12-13)。患者は首都のアデンなどで発生している模様です。同国に滞在する際は、飲食物に注意するとともに、コレラワクチンの接種を検討してください。
・米国でのジカ熱流行状況
米国のテキサス州・キャメロン郡でジカ熱の国内感染例が発生しました(外務省海外安全HP 2016-11-29)。この地域はメキシコ国境に接しており、12月下旬までに5人の患者が確認されています(米国CDC 2016-12-21)。一方、フロリダ州・マイアミでの流行はほぼ終息し、保健当局は感染指定地域を全て解除しました(外務省海外安全HP 2016-12-12)。ただし、日本の外務省は同地域への妊婦の立ち入りを延期するように勧告しています。2015年以来、米国では国内感染例が215人、輸入例が4541人発生しており、このうち38人が性行為による感染でした(米国CDC 2016-12-21)。
・ベネズエラでマラリア患者が増加
南米のベネズエラで今年になりマラリア患者が多発しています。11月初旬までに患者数は19万人で、昨年の11万人から大幅に増加しました。患者の7割は良性の三日熱マラリアですが、2割近くが重症化する熱帯熱マラリアです。患者発生が多いのは南部のBolivar州で、日本人観光客に人気のあるギアナ高地が位置しています。この地域に滞在中は蚊に刺されない対策をとるようにしましょう。