海外感染症流行情報 2025年3月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
(1)全世界:インフルエンザ、COVID-19の流行状況
北半球では24~25年の冬にインフルエンザの大きな流行が発生しましたが、3月になり収束傾向にあります(WHO Influenza update 25-3-12)。一方、今冬のCOVID-19は、世界的に患者数があまり増えずに収束に向かっています。ウイルスのタイプとしてはオミクロン株のXEC型からLP.8.1型に置き換わりつつあります(WHO COVID-19 Epidemiological Update 25-3-12)。
(2)全世界:麻疹の流行状況
今年は世界各国で麻疹の患者数が増加しており、アジアやアフリカでとくに増えています(厚生労働省検疫所 25-3-19)。また、米国ではテキサス州などで300人以上の患者が発生しており、小児の死亡例も報告されました(米国CDC 25-3-21)。日本では今年に入り3月12日までに22人の患者が報告され、このうち15人が海外での感染でした。とくにベトナムでの感染者が10人と多くなっています(国立感染症研究所 25-3-18)。海外に滞在する場合、麻疹感染の既往が無い人や、麻疹ワクチンを2回受けていない人は、出国前にワクチンの接種を受けるようにしましょう。
(3)アジア:デング熱の流行状況
東南アジアでデング熱の患者数が増加しています。フィリピンではマニラ首都圏などで、今年になり2月中旬までに4万人以上の患者が報告されており、昨年の1.5倍の数です(英国National Travel Health Network and Center 25-2-27)。ベトナムのホーチミンでは、2月中旬までに3000人以上の患者が発生しました(ProMED 25-3-3)。
(4)アジア:台湾での狂犬病動物の発生
台湾では狂犬病が一時根絶されていましたが、最近になり動物の感染例が度々報告されています。今年3月には、北西部の苗栗県で狂犬病に感染したアナグマが確認されました(ProMED 25-3-6)。同地域では2023年以来で3例目の動物感染になります。
(5)アフリカ:エチオピアでのコレラ流行
東アフリカのエチオピアでコレラの流行が発生しており、2月には1500人の患者が報告されました(ProMED 25-3-17)。隣接する南スーダンからの難民増加の影響によるものと見られています。エチオピア北部のアムハラを訪問した英国とドイツの旅行者が、帰国後にコレラを発病したケースも発生しています(ヨーロッパCDC 25-3-7)。同国に滞在する際には飲食物への十分な注意が必要です。
(6)アフリカ:ウガンダでのエボラ出血熱の流行状況
東アフリカのウガンダで1月からエボラ出血熱の患者が発生しています。患者数は3月上旬までに14人(12人確定)で、うち2人が死亡しました(WHO 25-3-8)。患者は首都カンパラ近郊や西部のコンゴ民主共和国国境付近で発生していますが、3月中旬以降、新しい患者は報告されていません。
(7)北米:米国での鳥インフルエンザH5N1型の流行状況
米国で昨年4月から発生している鳥インフルエンザH5N1型ウイルスの患者は、この1ヶ月間増加しておらず、70人のままです(米国CDC 25-3-24)。2月中旬にオハイオ州の家禽農場で感染した患者からは、新しいタイプのウイルス(D1.3型)が検出されました(米国CDC 25-3-19)。この患者は軽度の呼吸器症状がありましたが、既に回復しています。
(8)南米:ブラジル、コロンビアでの黄熱患者発生
ブラジル北部のパラ州で黄熱患者が37人発生し、このうち5人が死亡しました(ProMED 25-3-8)。サンパウロ州でも患者発生が続いています(ProMED 25-3-5)。コロンビアでは首都ボゴダ近郊のトリマ県で、3月中旬までに40人の患者(19人死亡)が報告されました(ProMED 25-3-14)。