海外感染症流行情報 2024年4月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)

(1)全世界:インフルエンザとCOVID-19の流行状況

北半球でのインフルエンザの流行は、ほぼ収束しています。一方、南半球では南米でA型の患者数が増えています(WHO influenza update 24-4-17)。COVID-19については、欧米諸国や日本での冬の流行は収束しましたが(米国CDC、ECDC、厚生労働省24-4-19)、中南米や東欧で患者数がやや増えています(WHO influenza update 24-4-17)。

(2)アジア:デング熱の流行状況

マレーシア、シンガポール、インドネシアでは、昨年同期を上回る数のデング熱患者が報告されており、マレーシアでは患者数が4万人以上、インドネシアで3万人以上にのぼっています(WHO 西太平洋 24-4-11、ProMED 24-4-15)。ベトナムでも1万人以上の患者が報告されていますが、昨年同期よりも患者数はやや少なくなっています。東南アジアはこれから本格的なデング熱の流行シーズンに入るため、十分な予防対策が必要です。

(3)アジア:ベトナムで鳥インフルエンザ患者が発生

ベトナム中部のカインホアで、21歳男性が鳥インフルエンザH5N1型に感染し、死亡しました(WHO 24-4-2)。ベトナムでは2003年以来、100人以上のH5N1型の患者が報告されており、半数が死亡しています(ProMED 24-3-25)。ベトナム南部のティエンジャンでは、37歳男性が鳥インフルエンザH9N2型に感染し、重症になっています(WHO 24-4-19)。H9N2型は中国などで100人近くの患者が確認されていますが、ベトナムでは本例が最初の患者になります。いずれの患者も、家禽などに接触して感染したと推測されています。

(4)オーストラリア:ロスリバー熱の流行

オーストラリアでは北東部のクイーンズランド州などで、今年1月からロスリバー熱の患者が1500人以上発生しました(ProMED 24-3-25)。ロスリバー熱は蚊に媒介される感染症で、発熱や関節痛を起こします。クイーンズランド州にはブリスベンやケアンズなど日本の旅行者に人気の観光地があり、滞在中は蚊に刺されない注意が必要です。

(5)ヨーロッパ:ポーランドなどでダニ媒介脳炎患者が増加

ポーランドでは昨年、ダニ媒介脳炎患者が659人発生しました(ProMED 24-3-29)。過去4年に比べて、年間患者数が2倍以上に増えています。スイスでも今年1月~3月に、27人のダニ脳炎患者が報告されました。これは昨年の2倍以上の数です(Fit For Travel 24-4-19)。気候の温暖化などで、媒介するマダニの数が増えたことが原因と考えられています。なお、ダニ媒介脳炎のワクチンが日本でも今年3月に承認されました。実際に流通するのには、もう少し時間がかかる見込みです。

(6)アフリカ:コンゴ民主共和国でのエムポックスの流行(続報)

中央アフリカのコンゴ民主共和国で、エムポックス(サル痘)の患者数が増加しています。今年1月から3月末までに患者数は4488人(疑いを含む)、死亡者数は279人になっています(ECDC 24-4-5)。この患者数は昨年同期の3倍で、患者の7割は小児とのことです。今回、コンゴ民主共和国で増加しているエムポックスは、現在、世界的に流行しているウイルス(Clade 2b)とは別系統のウイルス(Clade 1)で、致死率がより高い種類です。昨年後半から同国の東部で流行が発生し、全土に拡大しました。コンゴ民主共和国以外での患者は確認されていませんが、東部国境を接するルワンダやブルンジへの拡大が懸念されています。

(7)南北アメリカ:米国で鳥インフルエンザH5N1型の患者が発生

米国・テキサス州にあるウシ牧場の労働者が、3月下旬に結膜炎を発症しました。その後の検査の結果、原因が鳥インフルエンザH5N1型であることが判明しました(WHO 24-4-9)。患者には呼吸器症状はなく、結膜炎は回復しています。米国では今年2月ごろから、テキサス州などのウシの間でH5N1型ウイルスの流行が拡大しており、こうしたウシに接して今回の患者は感染したと推定されています。