海外感染症流行情報 2023年11月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況
WHOが11月25日に発表した月報によれば、新型コロナウイルスの世界的な流行状況に大きな変化はみられません(WHO coronavirus disease 23-11-25)。流行株はオミクロン株のEG.5が主流ですが、変異の多いBA.2.86が欧米諸国などで増加傾向にあるため、WHOはBA.2.86のリスクを「監視下の変異株」(VUM)から「注目すべき変異株」(VOI)に一段階格上げしました。米国では11月になり入院患者数や死亡者数が若干増加しています(米国CDC 23-11-18)。ヨーロッパ諸国でも入院患者数や死亡者数などがやや増加傾向にあります(ヨーロッパCDC 23-11-24)。日本では11月になり定点報告数が全国的に減少していますが(厚生労働省 23-11-24)、冬の到来とともに流行再燃が予想されます。
(2)全世界:インフルエンザの流行状況
11月は東アジア(中国、韓国など)や西アジア(アラビア半島諸国)でインフルエンザの患者数が増加しています(WHO influenza 23-11-10)。東南アジアでもタイやラオスで患者数が多くなっています。米国では11月中旬から南部を中心にインフルエンザの流行が始まりました(米国CDC 23-11-14)。ウイルスの種類は世界的にA型が主に検出されています。日本では11月初旬に流行が一時横ばいになりましたが、11月中旬から再び増加傾向にあります(厚生労働省 23-11-24)。
(3)アジア:中国で小児の肺炎が多発
中国北部(北京など)で10月中旬から小児の肺炎患者が多発しており、WHOは中国政府にその原因についての報告を求めました(WHO 23-11-23)。その後、中国保健当局からの報告によれば、新たな病原体の流行はなく、インフルエンザの流行に加え、ライノウイルスやマイコプラズマなどによる既知の呼吸器感染症の患者が増加している模様です(Pro-MED 23-11-25)。中国ではゼロコロナ政策を実施していたため、こうした感染症の免疫が低下したことが、小児で流行した原因と考えられています。
(4)アジア:アジアでのデング熱流行
東南アジアでは11月に入り全体的にデング熱患者の発生数が減っています(WHO西太平洋 23-11-23)。マレーシアでは今年の患者数が10万人、カンボジアでは3万人近くと、昨年の2倍以上の数になりました。また、南アジアのバングラデッシュでは、6月からデング熱患者が大幅に増加しており、11月中旬までに30万人を越えました(Pro-MED 23-11-21)。死亡者数も1500人以上になり、このうち900人は首都ダッカでの発生でした。
(5)アフリカ:コンゴ民主共和国でエムポックス患者が多発
コンゴ民主共和国でエムポックス(サル痘)の患者が、今年は11月までに1万2000人発生しており、このうち581人が死亡しました(WHO 23-11-23)。性行為感染で流行が拡大している模様です。エムポックスはコンゴ民主共和国など中部アフリカで流行している1型と、西アフリカで流行している2型があり、前者の致死率が高いとされています。2型は2022年から性行為感染などで世界流行をしていますが、1型は最近まで性行為感染が確認されていませんでした。今回のコンゴ民主共和国での調査で、1型も性行為感染で拡大しており、同国内で多くの患者が発生していることが明らかになりました。
(6)ヨーロッパ:イタリア、フランスなどでの蚊媒介性感染症の発生
今年はイタリアとフランスでデング熱の国内感染例が続発しています(ヨーロッパCDC 23-11-10)。11月までの累計患者数はイタリアで72人、フランスで41人になっており、フランスではパリ郊外でも2人の患者(家族)が確認されました(Pro-MED 23-11-19)。