海外感染症流行情報 2023年10月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況
WHOが9月末に発表した月報によれば、新型コロナウイルスの世界的な流行状況に大きな変化はみられません(WHO coronavirus disease 23-9-29)。流行株はオミクロン株のEG.5が主流で、変異部位の多いBA.2.86はあまり拡大していません。米国では9月に入院患者数や救急受診者数が若干増加しましたが、10月は減少傾向です(米国CDC 23-10-14)。一方、ヨーロッパ諸国では10月に入り、入院患者数や死亡者数などがやや増加傾向にあります(ヨーロッパCDC 23-10-20)。日本では10月になり定点報告数が全国的に減少し、夏の流行は収束してきました(厚生労働省 23-10-20)。今後、北半球では冬の流行が再燃するものと予測されます。
(2)全世界:インフルエンザの流行状況
南半球のインフルエンザ流行は終息し、欧米諸国でも流行はまだ始まっていません(WHO influenza 23-10-16)。一方、アジアでは各地で流行が報告されています。東南アジア(マレーシア、タイ、シンガポールなど)や南アジア(インド、バングラデシュ、ネパールなど)では、A型の流行が8月より拡大しており、中東のイランやUAEでもA型の患者数増加が報告されています。日本や中国、韓国などの東アジアでも、9月からA型の患者数が増加し、日本では10月中旬、全国的に注意報レベルの流行になっています(厚生労働省 23-10-20)。
(3)アジア:アジアでのデング熱流行
9月末になり東南アジアではデング熱患者の発生数が減っています(WHO西太平洋 23-9-29)。マレーシアでは今年の患者数が8万人、カンボジアでは2万人と昨年の2倍以上の数ですが、それ以外の国では昨年よりも患者数が少なくなっています。台湾では9月末までに患者数が1万人を越え、患者の9割が台南での発生でした(Outbreak News Today 23-9-26)。
(4)アジア:カンボジア、中国での鳥インフルエンザ患者の発生
カンボジアの東部でA(H5N1)型の鳥インフルエンザの患者が2名発生しました(ヨーロッパCDC 23-10-13)。患者は50歳男性と2歳の女児で、女児は死亡しました。いずれも家禽からの感染とみられています。同国では今年2月にも2名の鳥インフルエンザ患者が発生しています。中国の重慶ではA(H5N6)型の鳥インフルエンザの患者が1名発生し、死亡しました(ヨーロッパCDC 23-9-29)。
(5)ヨーロッパ:イタリア、フランスなどでの蚊媒介性感染症の発生
イタリアとフランスでデング熱の国内感染例が発生しています(ヨーロッパCDC 23-10-20)。イタリアでは58人が報告されており、北部のロンバルディア州やローマ周辺のラツィオ州での発生です。フランスでは、地中海沿岸のプロバンスやオキシタニ地方を中心に35人が報告さています。ヨーロッパでは西ナイル熱患者の発生も増加しており、イタリアで313人、ギリシャで161人、フランスで36人が報告されました(ヨーロッパCDC 23-10-20)。デング熱も西ナイル熱も蚊が媒介する感染症で、西ナイル熱は以前からヨーロッパで流行していますが、デング熱の流行は今年になってからです。近年の温暖化で媒介蚊の数が増えたことや、新型コロナ流行後の国際交通の再開が影響していると考えられています。
(6)アフリカ:アフリカでのデング熱流行
米国CDCは、アフリカ東部のスーダン、エチオピア、ケニア、タンザニアなどで、デング熱の持続的な流行が発生していることを報告し、渡航者に蚊の対策をとるように注意を呼びかけています(米国CDC Traveler’s Health 23-10-18)。また、WHOはアフリカ中部のチャドで、デング熱の患者が1300人以上発生したことを報告しました(WHO 23-10-16)。