海外感染症流行情報 2023年6月 (東京医科大学病院 渡航者医療センター)
(1)全世界:新型コロナウイルス流行状況
6月は世界的に新型コロナウイルスの感染者数が減少しています(WHO Corona virus disease 23-6-23)。冬を迎えている南半球でも顕著な感染者数の増加はみられていません。検出されているウイルスの種類は、オミクロン株の亜型であるXBBが大多数を占めており、とくにXBB.1.16が増加傾向にあります。日本では6月になり感染者数が全国的に緩やかに増加し、とくに沖縄県での感染者が増えています(厚生労働省 23-6-23)。なお、今年の秋のワクチン接種として、欧米諸国や日本では現在流行中のXBB型を含むワクチンの使用を決めました(第47回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 23-6-16)
(2)全世界:インフルエンザの流行状況
6月は冬を迎えた南半球の温帯地域でインフルエンザの流行が拡大しています(WHO Influenza Update 23-6-12)。オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、チリなどでインフルエンザの患者数が増加しており、A(H1N1)型の検出が増えています。一方、北半球での流行はほぼ収束しました。
(3)アジア:東南アジアでのデング熱流行状況
東南アジア各国でデング熱患者が増加しています(WHO西太平洋 23-6-8)。マレーシアでは4万人以上の患者が発生しており、昨年の2倍以上の数になっています。フィリピン、ベトナム、シンガポールでも患者数は増えていますが、今年は昨年並みか、それよりも少ない数で推移しています。東南アジアではこれから蚊の増える雨季になるため、十分な注意が必要です。
(4)アジア:マレーシアでサルマラリアの患者が増加
マレーシアのサバ州で、今年になりサルマラリアの患者数が増加しています(ProMED 23-6-14)。今年5月までに同州で確認されたマラリア患者は840人で、このうち816人がサルマラリアの感染でした。サルマラリアは最近、東南アジアでヒト感染例が数多く報告されており、周期的な発熱をきたしますが重症化は少ないとされています。マレーシアのサバ州では奥地への開発が進み、サルとの接触が増えたことが原因と考えられています。
(5)アフリカ:タンザニア、赤道ギニアでマールブルグ熱流行が収束
WHOはタンザニアと赤道ギニアで発生していたマールブルグ熱の流行が終息したことを発表しました(WHO 23-6-2, 8)。タンザニアでは9人、赤道ギニアでは40人の患者(疑いを含む)が発生し、死亡者はタンザニアで6人、赤道ギニアで35人となっています。
(6)ヨーロッパ:英国で鳥インフルエンザH5N1の患者発生
英国で鳥インフルエンザA(H5N1)型の感染者が2人発生しました(WHO 22-5-30)。いずれも鳥インフルエンザに感染したニワトリの処理を行っていた人で、症状は有りませんでした。昨年も感染したニワトリの処理を行っていた人の感染が、英国で 1 人、米国で 1 人、スペインで 2 人報告されており(WHO 22-1-14 ,5-6, 11-3)、いずれも無症状か軽い症状でした。一方、アジアなどで家禽からA(H5N1)型に感染するケースでは、重症化することが多くなっています。
(7)南米:ブラジル・サンパウロ州で黄熱患者発生
ブラジルのサンパウロ州で2年ぶりに黄熱患者が4人発生しました(ProMED 23-5-29)。このうち2人は死亡しています。ブラジルでは最近、黄熱流行地域が拡大しており、同国に滞在する場合は黄熱ワクチンの接種を受けておくことを強く推奨します。
(8)南米:ブラジルで豚インフルエンザの患者が発生
ブラジル南部のパラナ州で、ブタ由来のA(H1N1)型インフルエンザウイルスの感染者が発生しました(WHO 23-6-16)。感染者は40歳代の基礎疾患のある女性で、肺炎などを起こして死亡しました。この女性はブタとの直接の接触は有りませんでしたが、養豚場の近くに住んでいたことが明らかになっています。なお、濃厚接触者に感染例は確認されていません。